ラジオ放送局 ゆめのたね

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【ゆめのたね × SDGs】青森にチャンスとチャレンジを広げる「あおもりラジオくらぶ」

2024.09.13

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青森で「生きる、暮らす」に寄り添うラジオ局

2024年 3月11日。東日本大震災の発生から13年となるこの日、ラジオパーソナリティ・DJ 小笠原秀樹さんは、青森駅前の複合施設 A-FACTORY 特設スタジオにいました。

彼は、ラジオ/YOUTUBEの生放送番組「3.11 NEVER FORGET  ~ともに生きる ともに暮らす~」の番組パーソナリティとしてマイクの向こう側へいつも以上に熱く語りかけていました。

例年3月11日に放送しているこの特別番組。2024年は能登半島地震で被災された方もおられる中、防災士や青森市危機管理課担当からの防災情報、元青森放送アナウンサー大竹辰也さんによる震災をテーマにしたドラマリーディングなど、濃密な90分の生放送でした。



青森市生まれの小笠原秀樹さんは、2020年よりゆめのたね放送局にて番組「青い森でCha!Cha!」のパーソナリティを務めています。コンセプトは「青森から送る地方創“声”プログラム!」。そしてこの番組がユニークなのは、彼自身が代表理事を務める「 特定非営利活動法人あおもりラジオくらぶ(あおラジ)」 でも配信される2局コラボ番組なのです。

この紹介だけでピンと来た方もいらっしゃるはず。そう。彼には2つの顔があります。ラジオパーソナリティとしての顔と地元ラジオ放送局NPOプロデューサーとしての顔。どちらの顔にも共通して流れる想いは「青森県で生きる・暮らすを届ける」という地方貢献マインドです。

小笠原秀樹さんが中心となって2008年に立ち上げた「特定非営利活動法人あおもりラジオくらぶ(あおラジ)」。当初は主にラジオを活かした番組制作講座を各所で開催していました。青森市のコミュニティFM放送の設立を視野に入れつつ「地域貢献ラジオ局」としての方向性を模索していたそうです。

2010年。そこに転機が訪れます。

青森市民ラジオ局として羽ばたき始めた「あおラジ」

その転機とは、青森公立大学 国際芸術センター青森のアーティスト・イン・レジデンス事業「24our television」にあおラジが参加したことでした 。

これは、アーティストたちによる24時間限定のライブ・ドキュメント展覧会のインターネット生放送という実験的な企画でした。あおラジは、当時広く利用されていたUSTREAMを活用した「24時間 副音声生放送」を実施。(想像するだけでなかなか無謀な企画です。)しかし、その試みは本放送の視聴数の大幅増に貢献し、プロジェクトを大いに盛り上げることになりました。

小笠原さんはじめあおラジ運営チームは、この成功体験を契機にインターネットメディアを活用して地域活動を相乗的に盛り上げていくラジオの在り方に自信を深めていきました。



「インターネットラジオ」に光明を見出した小笠原さんたちは、先進的な事例をリサーチする中で、運命的な出会いをすることになります。当時、FM GIG (京都)にてインターネットラジオ番組を配信し大人気を博していた岡田尚起さん・佐藤大輔さん(現 ゆめのたね放送局共同代表)との出会いです。

京都まで訪れた出会いから間もなく、岡田尚起さんを青森市に講師として招き、あおラジ主催でインターネットラジオ勉強会を開催しました。岡田尚起さんたちの番組「ゆめのたね」(まだこの頃はゆめのたね放送局はなく、たった1つの番組でした)の活動にインスピレーションを受けた小笠原さんはインターネットを活用した「人の夢を応援するラジオ」の可能性が確信へと変わっていきます。

その後のあおラジの活躍は目まぐるしく、青森の行政・団体・マスメディアのコラボレーション役を毎年着実に担っていくことになります。



青森県主催「青森県津軽海峡交流圏ラムダ作戦会議公開ナマ作戦会議」、青森市長選立候補予定者公開討論会、リレー・フォー・ライフ(がん患者やそのご家族を支援するチャリティイベント)など。これらのイベントも全て生配信ラジオを手掛け、視聴者を巻き込んだPR活動を展開しました。

2015年には「今日は一日“ラジオ祭”三昧」と題し、NHK青森放送局の協力でNHKラジオとコラボによる生放送も担当。気がつけば、あおラジは「青森市唯一の市民インターネットラジオ局」として青森県内のメディア業界人が放っておけない独自のポジションを確かなものにしていきました。


手を取り合い、粘り強く地域と伴走する

小笠原さんはなぜこれだけ青森の市民ラジオ運営に情熱を傾けてこれたのでしょうか?
その答えを探るべく、彼の「3つ目の顔」について触れてみたいと思います。それはラジオパーソナリティ、NPOラジオ局プロデューサーに加え、持続可能な地域活性化を支援する「まちづくりプロデューサー」としての顔です。

20代、青森県内のテレビ局で記者・ディレクターをしていた小笠原さんは、その後、青森公立大学大学院で地域経営を学びそこで故 三上 亨さん※ と出会います。

※三上 亨さんは地域活性化伝道師(内閣府)として、地域の自立に向けたプロセス支援と地域経営人材の育成など、青森の地域活性化に長く貢献されたまちづくり支援の第一人者です。

小笠原さんは、三上さんのアシスタント兼地域活性化プロデューサーとして、青森の地域の自立に向けたプロセス支援・創業支援・地域経営人材の育成に取り組んでいくことになったのです。それらの中で小笠原さんが特に深く関わっている地域の一つが、津軽の歴史ある温泉町である 大鰐町(おおわにまち)の再生支援です。小笠原さんは立場の違う様々な町民の方の声に耳を傾けながら、粘り強く希望のある町の再生へと町民と共に伴走していきます。

2008年当時、日帰り温泉や飲食施設を備えた地域交流センター 鰐come(ワニカム)は利用客減少のため経営が危ぶまれていたのですが、町民が中心となって結成された「プロジェクトおおわに事業協同組合」が運営を受託。受託初年度で赤字化を解消することが出来たのです。


※2007年、財政難・観光客減少に危機感をもった有志16名を中心に OH!!鰐 元気隊 を発足。ワークショップを重ね大鰐町を元気にするアクションプラン作成。130名の会員による本格的な地域づくり活動が加速していく。

そして、小笠原さんがより熱く語ってくれたのが、2022年大鰐温泉駅の目の前に開業したカフェ Craft&café RAITO のことでした。

ここは「山崎みやげ店」をリノベーションし、コーヒーやアップルパイの販売・イートインそして青森の伝統工芸作品や雑貨を取り扱う複合店舗です。小笠原さんは地域商社「大鰐まちづくり笑社株式会社」と共に、高齢化や後継者不在で存続が困難だった山崎みやげ店を駅前の新たなお洒落なサードプレイスとしての再スタートできるように、ご家族の相談役になりながら粘り強く後押ししてきました。

Craft&café RAITO はとても先進的な地域再生事例として話題にもなりました。リノベーション事業継承店として若者が集う店舗でありながら、その店舗内の一部には、旧来の山崎さんのみやげ店スペースを一部残し両立させています。つまり同じ店舗内に、カフェには若者や観光客が集い、山崎さんのスペースには地元住民の方たちが集まる。まさに「町の縁側」のようなカフェなのです。

山﨑さんからは「お店を閉めてしまおうと思っていたところ、いい若い人が来てくれてありがたい。」、息子さんからは「母が生き生きしてきて、なんだか元気になりました。」と声をかけてくれたそうです。

裏方として山崎さんのご家族と粘り強く伴走してきた小笠原さんにとっては、何時にも増して染みいる嬉しい言葉でした。


※「大家さん共働型事業承継」と名付けられたこの事業は、全国の地方が抱える問題への解決策のモデルケース。高齢化の進んだ商業エリアの若返りを図りつつ、地域商社の社員として若者を雇用し独立支援を行いながら地域活性化を両立させていくスキームとなっている。

応援はどこかで繋がり、驚くような力に変わる


「蓄積は何より力になる。」それは逆境でこそ実感できるものです。

2020年、世界中で新型コロナウィルスが猛威を奮い始めた一方で、世の中におけるコミュニケーションのリモート化が一気に普及していきました。「大変な今こそ、人の生きる・暮らすを応援するインターネットラジオの出番だ。」 そう直感した小笠原さんは、ゆめのたね放送局にて地域貢献番組「「青い森でCha!Cha!」をスタートさせます。

ゆめのたね放送局が2015年に開局し全国展開してラジオコミュニティを急速に広げていることも、小笠原さんは日頃からウォッチしていました。そして、ゆめのたね放送局は2020年春いち早く遠隔収録の番組収録・配信の体制に移行していたのです。そのため青森に居ながら「あおラジ」との相乗効果で更にリスナーが全国に広がるメリットも大きかったそうです。(まさしく筆者もその一人です。)


「インターネットラジオパーソナリティ」と「市民ラジオ局運営プロデューサー」と「まちづくりプロデューサー」。新型コロナ禍による逆境の中で、小笠原さんの蓄積してきた力が一つに交わった瞬間でした。


「応援はどこかで繋がり、驚くような力に変わる。」そう実感できる出来事もありました。

小笠原さんが支援に関わってきた大鰐温泉駅前に、Uターンした若者三人がカフェバー「From O(フロムオー)」を開業。2023年5月、小笠原さんのラジオ番組でもゲスト出演を果たします。同年9月、そんな彼らが「空き店舗が増えてしまった通りを盛り上げよう」と、自主的にフード&クラフトイベント「わぁんどすとりーと」を開催。なんと1日で1500人の来場者を集める大成功を収めたのです。

シャッター通りの大鰐温泉駅が若者たちで溢れかえる驚くような光景に、大鰐町に小さな希望の種を撒き続けてきた小笠原さんの胸に込み上げるものがあったことは、想像に難くありません。



人口減少、少子高齢化、過疎化の進展は成り行き任せにしていてはそこで暮らす人たちの喜びや誇りを奪ってしまいます。青森県は全国的に見てもそんな不安に早くから向き合ってきた県なのかもしれません。

でも、小笠原さんの目はキラキラと未来を見つめています。

「ラジオを通じて、青森の人たちがやりたいこと夢を応援し合う。たとえ否定的なことを言われたり足を引っ張られることがあっても、ラジオの力で、みんなで「手を引っ張って」いきたい。」

あおラジは2023年にNPO法人設立15年の節目となり、小笠原さんが代表理事に就任。次の15年を見据える彼のはにかんだ笑顔は、「人の夢を応援する市民ラジオ」の第一人者として走り続けてきた喜びに溢れていたようでした。


あおもりラジオくらぶ・青い森でCha!Cha! が貢献するSDGsゴール


・ゴール3  すべての人に健康と福祉を
・ゴール4  質の高い教育をみんなに
・ゴール9     産業と技術革新の基盤をつくろう
・ゴール10   人や国の不平等をなくそう
・ゴール11    住み続けられるまちづくりを
・ゴール16 平和と公正をすべての人に
・ゴール17   パートナーシップで目標を達成しよう


執筆:幸田リョウ (ゆめのたね放送局アドバイザー/株式会社PARK STARS 代表取締役)

ゆめのたね放送局は、2015年6月の開局から8年で全国12スタジオに広がり、ラジオ番組企画・配信を活かした「人の夢を応援するコミュニティ」も広がりを見せています。この連載【ゆめのたね × SDG】では、コミュニティデザインを専門とする私 幸田リョウの視点を交え、各地に広がる社会貢献の活動をご紹介していきます。ゆめのたねパーソナリティの番組企画・貢献活動にますますご注目いただければ幸いです。